ヌードモデルに恋した僕の、葛藤の日々

その当時私は、絵画研究所で何人もの画学生たちとともに、絵画のすべての基礎となる石膏デッサンや人体デッサンに励んでいました。

人体の場合は、コスチュームをまとう場合もあれば、ヌードの時もあります。ヌードは文字通り全裸です。モデルの女性は、顔もスタイルも抜群で、ふだん休みがちな生徒たちも、この日にかぎっては必ずと言っていいほど出席していました。

最初のうちは僕も、あくまでデッサンのためのモデルとしてその女性を、木炭紙にせっせと描いていました。よく人から、興奮しないかときかれますが、描くたびに興奮していたのでは、とても身がもちません。

僕は後で講師にほめられるほど、すばらしいヌードデッサンを描きました。帰りの電車でのことです。前の席に座った女性が、僕のほうをちらちらうかがうように見るのに気がつきました。

はじめは気のせいかと思っていたのですが、そのうち、にこっと笑うではありませんか。僕は彼女をまともに見据えました。そして彼女が、あのモデルの女の子だったことがわかったのです。

裸の印象があまりに強すぎて、控えめな色のブラウスに膝もすっぽり隠したスカートを着けたいまの彼女が誰だか、すぐにわからなかったのは無理もありません。

ひとたび彼女だとわかった僕は、彼女の傍まで歩みりました。その拘りのない親しみが、とても彼女に気にいられた様子でした。

ヌードモデルだから、抵抗を示す連中も、結構いると後で彼女が言っていました。僕たちはメールアドレスを交換しました。

そして三日後の日曜日には、デートをしていたのです。前述のように、彼女はスタイルもいいし、顔立ちだってすてきです。

路上ですれちがう周囲のカップルたちがおもわずふりかえって僕たちを見ました。それからが、大変でした。彼女はその後も絵画教室でモデルを続けました。

僕としては、自分の彼女の裸を、大勢の男たちの目にさらすわけです。それは辛い経験でした。

といって、彼女にモデルをやめてくれといえるだけの甲斐性があるわけでなく、僕は激しい葛藤のなかでデッサンと格闘していました。

ある日彼女が、僕にむかって、モデルやめようかと聞いてきました。

モデル台にたって、僕を見ていると、あなたの気持ちが痛いほどわかるのと言ってくれました。

僕はかぶりをふり、無理はしなくていいよと答えいました。彼女はそれから、だんだんとヌードモデルをへらしていき、最後にはコスチュームを着けてのモデルを専門にするようになりました。

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